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ケアとアートが出会うとき

──表現が導く再生とつながり──

倉石聡子(アップコンセプト・スタジオ)

 本講座では、「ケア」と「アート」がどのように出会い、人の回復や生き直し、他者とのつながりを支えてきたのかを、歴史的背景と具体的な実践を交えながら紹介した。ケアとは、単に困難や症状を取り除くことではなく、困難を抱えながらも「どう生きるか」を支える営みであり、誰もが日常的に担い、また担われる双方向的なものとして捉えられる。一方、アートもまた、技芸としての芸術に限らず、描く・つくる・表すといった創造的な営み全般を含む概念であり、言葉にならない感情や経験を抱えとめる力をもっている。

 

 「アート」という言葉は、語源的・思想的には、より広く「生きる術」「生を営むための技」を内包している。古くから人は、絵を描き、歌い、踊り、物語を紡ぐことで、喪失や不安、喜びや祈りを共同体の中で共有してきた。それらは、芸術であると同時にケアでもあり、生き延びるための知恵でもあったと言えるだろう。現代において共同体のかたちは変化したが、アートは今もなお、個人の内的な回復と、他者とのゆるやかなつながりを媒介している。
 

 講座前半では、「ケアミーツアート研究所」の活動を中心的に紹介した。犯罪被害者遺族による追悼の場として始まった「ミシュカの森」を起点に、悲嘆や喪失を抱える当事者だけでなく「悲しみ」という共通の水脈を通して、人と人が共にいる場づくりが続けられている。そこでは、まず「存在すること」そのものが尊重され、異なる感じ方や表現を無理に揃えることなく、共にいることが大切にされている。このような視点は、講師がこれまで携わってきた災害後の地域や支援者の集まりなど、アートを介したコミュニティ活動においても共通している。当事者・支援者という立場や、文化、民族、役割や肩書きといった垣根を超えて、アートは感情を無理に語らせることなく、人が共に生きていくための「余白」を生み出すのであろう。
 

 講座後半では、参加者自身によるアートワークが行われた。それぞれが好きな枝を選び、色とりどりの毛糸や自然素材で装飾し、オリジナルの「木」を制作する。完成した作品は、部屋の中心に設置されたオアシスに刺したり、立てかけたり、吊るしたりしながら、会場全体で一つの大きな木のアートへと構成された。素材の選び方や飾り方、作品の置かれ方に正解はなく、それぞれの違いがそのまま場に現れていった。倒れそうな枝を皆で工夫して支えたり、誰かの枝と枝が寄り添うように並べられたりするプロセスそのものが、まさにコミュニティアートであり、「違っていても共にある」ことを身体的に体験する時間となった。
 

 アートは、個々の内側にあるものを尊重したまま、他者と並び立つことを可能にする。本講座を通して浮かび上がったのは、アートが個人の内面に働きかけるだけでなく、共同体の結び直しを静かに促す力をもっているという点である。悲しみは「乗り越える」ものではなく、「十分に悲しむ」ことが許されるとき、人は再び他者と、そして社会とつながり直すことができる。ケアとアートの出会いは、そのための確かな入り口となり得るであろう。

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