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熊本地震における被災地支援
~音楽支援を通して学んだコト~

池田 憲治(介護老人保健施設フォレスト熊本)

 シンポジウムでは、熊本地震の被災者であり支援者でもある立場から、音楽療法士・ボランティアコーディネーター・介護福祉士として携わった被災地支援の経験を報告しました。その中で得た学びを振り返りながら、被災地支援の意味について考察します。
 

 近年、地震や豪雨などの災害が各地で頻発し、災害はいつどこで起きてもおかしくありません。平時からの備えが重要です。「被災地支援」と聞くと、多くの人は良いこと、喜ばれることと捉えがちですが、必ずしもそうではありません。善意の支援であっても、時期や方法を誤れば、かえって被災者の負担となる場合があります。同様に「音楽支援」も良い影響を与えると一般に考えられていますが、実際には受け止め方は人それぞれであり、常に肯定的に作用するとは限りません。
 

 では、支援とは何でしょうか。それは「してあげる」ことではなく、被災者の状況を理解し、共に考え、必要な形をともに作り出していく営みです。災害直後から復興の過程にかけて、生活環境や人間関係は日々変化します。その変化に寄り添いながら支援の在り方を調整していくことが求められます。
私が熊本地震で取り組んだ「コミュニティ音楽療法」は、そうした変化の中で一定の役割を果たしました。仮設住宅や地域ごとに異なる環境で、音楽を介した交流の場を設けることで、孤立を防ぎ、人と人とをつなぐことができました。これは単なる娯楽ではなく、被災者が日常を取り戻すきっかけとなり、レジリエンスを育む支えにもなりました。

 

 専門家が関わる意義については、阪神淡路大震災の際に被災地支援に携わった精神科医・中井久夫先生の言葉が示唆に富みます。先生は「臨床場面では、してはいけないことは汎化できるが、したほうがよいことは標準化できない」と述べています。つまり、支援には普遍的に避けるべきことはあっても、必ず効果的な方法を一律に定めることはできないということです。現場での観察力や判断力を備えた専門職が、その時々の状況に応じて柔軟に支援を形づくることが重要なのです。
 

 さらに、被災地支援においては「Ripple Effect(波及効果)」の視点も大切です。小さな行動が水面の波紋のように広がり、社会全体に影響を及ぼすことを指します。実際に音楽支援でも、一人の参加者が元気を取り戻すことが周囲に伝わり、地域全体に広がっていくことを実感しました。大規模な支援だけが価値を持つのではなく、小さな取り組みの積み重ねこそが、被災地支援の本質であると考えます。
この経験から学んだことは、支援とは一方的な「善意の提供」ではなく、被災者と支援者が共に歩み、関係を結び直すプロセスであるということです。そして、音楽はその媒介として、人と人とをつなぎ、希望を広げる力を持つことを実感しました。今後の被災地支援においては、専門職が地域に継続的に関わり、コミュニティを再構築していく視点を持つことが不可欠であると考えます。

 

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